郷土讀本(S15.11.10発行)より

昨日から降り積んだ雪にすつかりおほはれた野山は見渡す限り一面の銀世界だ。枝もたわわにしだれかかる木木が朝日をあびてむくむくと盛り上つてゐる。もうあちこちにスキーをはいて遊ぶ人人の姿が見える。

「オーイ、スキーに行かう。」僕は三人の友を誘ひ合はせて早川スキー場に出かけた。やはらかく波うつ山の斜面はゆるく長くその裾を連ねてゐる。四人は競争してぐんぐん登った。一足毎にふみ荒される雪肌が強い日ざしに映えてまぶしい位目にしみる。 持ち上げる毎にくづれ落ちる雪は十糎はあるであらう。中腹につく頃は身體はしつとりと汗ばんで杖をにぎる掌がやつと暖くなった。

漸く頂きに着いた。見下すとでこぼこにゆがめられたスキーの跡がくっきりとしたかげを見せて入り亂れてゐる。

「いい景色だなあ。」と見とれてゐると三人の友が白い息をはきながら登って来た。

「行くよう。」と大きな聲を出すと友達が一せいに目をあげた。杖を軽く押して右足からぐつと乗り出した。スキーはやはらかい雪の上を浮いて走る。またたく間に下の平についた。ふりかへると續いて降りてくる友の姿が雪煙の中に見る見る大きくはつきりしてくる。今度は一段高い所から滑った。すばらしい勢だ。膝が自然にしまる。ころぶまいとして一層全身が緊張する。耳をかすめる風は冷たい。突然すれすれに友達が追ひ越して行った。それからはもう何もかも忘れて滑つた。

その中にだんだん人人が澤山になってきた。上る者、降りる者、笑ふ者、うたふ者、中にはころんで大きな穴をあけて雪だるまのやうになつて起き上る者もある。晝近く僕達が歸る頃にはさすがに廣いスキー場も、まき散らされた人の姿で一ぱいになつてゐた。

「西頸城郡で最初に開かれたスキー場だけに中中立派なものだ。」誰やらが言ってゐた。