
私の経験から
私達は日常の生活でいろんな話合いをしますが、皆さんの中にこんな経験をお持ちの方、いらっしゃいませんか?
或る用件を聞かされるとその内容を理解できたと思っても思わぬ喰い違いが生じているものです。深く探究しないでいざ真の問題に直面すると、とんだ失敗をしてしまう事があります。
私もこんな体験をしました。或る初夏の昼下り来客の気配に私は階下におりたのです。玄関には見慣れぬ青年が立っていました。「○○さんの御宅はこちらですか?」「はい」「御主人おられますか?」「今一寸出かけて留守なんですが…、どちら様でしようか?」「長岡の農事試験場からきたのですが御宅ではK雑誌をとっておられる筈ですが、その集金に伺ったのです。」
私は以前から契約もしない雑誌が毎月郵送されて来ている事に解せぬ疑問を持っていたのです。そんな折柄、先日も郵送されて来た雑誌を見ていた御主人が「もう、この雑談断った方がいいよ。」「契約でもしてあるんですか?」「契約などしてないんだ。勝手に送ってよこすんだから…。」 それにしてもマスコミの盛んな此の頃でもよく一年余無料のサービスが続くものだと感歎したものの、いささか疑問も湧いていました。けれども私は強いてその事を話す必もないと思い口にはしませんでした。もしも其の時一言話せばこんな事はおそらくなかったでしょうに…。

折悪く不在の所へ集金にこられて私は当惑してしまいました。一応此のことについて話をしなければならないと思い、さり気ない調子で「この雑誌毎月送って頂いていますがこちらで契約でもしてあるんでしょうか?」と尋ねてみた。
妙なことを聞く人と思ったのかいぶかりながら私を見ていましたが「契約していたからこそ送ってよこすんですよ」「でもこちらでは契約はしてあるとは言って居ませんでしたけど…。」途端に其の人の顔は険しくなり語調が荒々しくなった。「何をおっしゃるんです契約して送ったものに貴女はケチをつける気ですか?」「いいえ、そんなつもりはありません。只、私の聞いております処によりますと貴方方の会社で勝手に郵送しておいて何の連絡も無しに集金に来られたことが納得ゆかないもんですから。」「先程も云ったでしょう。お宅ではちゃんと契約してあります。これを御覧なさい。」差し出された紙片には確かに氏名が記入されてある。
けれど私は直接本人から契約してないとはっきり聞かされている以上この人の言葉を信用する事はできない。
「僕はね、各地を廻っていますがこんな事言われたのは貴女が始めてです。うちの会社はそれ程不正な真似はしていないですから女のくせに生意気じゃないですか。一体貴女はどこのものです。」
私は黙っている。二度もしつっこく聞くから「上早川です」「上早川のどこです?」これ以上答える必要もないと思った。私は黙ってしまった。ハンチングベレーの下から凄みのある目が私を睨んでいる。それからしばらく耳をふさぎたい位の暴言を浴せられたが製材機の轟音にかき消されて外部に聞こえる必然はない。

私はこんなに叱られた事は、全く始めての事、けれど私は私でこれは体裁の良い雑誌の押売りなんじゃないかしら?良く話もしないうちに怒り出し、しかも私の住所なんか聞く必要もないのに、きっといやがらせかおどしに過ぎないわ、と平気を装って居たのです。が内心私の心は動揺していたのです、もしも相手の言う様に実際に契約でもしてあるのならこれは確かに侮辱を与えた、行き過ぎな、行為に相違ありません。
私としてもこの事についてくわしい内容は知らされていた訳ではありませんのでどちらが事実なのか判断がつかなくなって全く途方にくれてしまいました。取りあえず帰宅するのを待って頂き直接本人と話合って頂く他ありません。しばらくの後、此の問題は解決しましたが事実の内容は次の通りなのです。
ある一定の期間だけの契約は確かに結ばれていたのです。しかし、其の後の契約は、まだ、未定なのに郵送されて来ていた為と、OOさんが此の事を話したのです。
私はそれとは知らず最初から契約は結ばれていないものだと解釈してしまったのです。
日頃、人との応対についてもっと意志を強くもつ様に注意されて、今日こそはとその意志を発揮した結果、思わぬ失敗に私はつくづく話の内容は理解する迄聞いておく必要がある事を感じさせられたのです。

