中早川青年会発行「わかもの」第2号より_P11

吾輩は米である

今年は5年続きの豊作とかで吾輩の仲間がものすごく増えた。上早川農協でも、下早川農協でも吾輩のマタジに困っているらしい。

この頃百姓共は吾輩の製造がうまくなって生産過剰になるのではないか、と心配になる吾輩は、晴れ着である俵がなくカマスという借り着を着せられて、いつまでも、農協の入り口にゴロゴロごろがされていては、この寒い季節に風を引きそうだ。

吾輩は、実際人間共は身勝手だと思う。消費者という奴等はこの頃、吾輩を馬鹿にしてうまいとかまずいとか文句をつける。そして、少しでも安く買いたたこうとしている。

吾輩は、今統制されているから、農林省というところで責任を持っていて値段が定められて売買されているが、余り仲間が増えると、統制が外されてしまうかも知れない。そうなると、吾輩の値段が悪知恵のある人間共に都合のいいようにつけられてしまう。人間の中で吾輩の味方である百姓は、どうも頭が悪いようだ。吾輩を作ることばかり考えて、吾輩の売られ先を考えてくれない。

吾輩が買われていく時、食糧庁とかの検査官という、実に生意気そうな人間に身体検査や服装の検査をされる。そして、一等米から、四等米まで順位が付けられて、三等米以下は県内で消費され一、二等米は、遠い他県まで送られる。

百姓の中には、吾輩を一等にした方が高く売れるので都合がいい筈なのに一等米にすると生産率が低いといって喜ばない奴もいる。

吾輩を良く乾かすと、等級が良くなるのだが北陸地方は湿気が多くて中々うまくいかないらしい。だから越後の仲間など軟質米だと悪口をたたかれて、越後の百姓が特別に苦しんでいる。この苦労は吾輩には一番良くわかる。

春も雪の残っているうちから吾輩の苗を作るために、田を耕し、田植えをするまでの本田作業は、関東や関西地方の百姓にはわからないだろう。勿論消費者や其の他の人間共は知らないのだ。そして、夏も湿気の多い越後では、吾輩の病気が多く、害虫にも攻められるので、いつも百姓共は、汗びっしょりになって、吾輩の世話を焼かなければならない。

そのあげく生産量も低くなるのだから越後の百姓共は哀れだと思う。

ところが百姓共の中に吾輩の値段がどのようにしてつけられるか知らないような、ナマケ者がいる。

吾輩の値段を決めるために、人間共は米価審議委員会というのを作っている。この審議委員会というのは、百姓共の代表と、消費者共代表と、それから、人間の中で一番頭のいい学識経験者と言うのが集まって吾輩のことを何回も話し合って、値段を決めて、農林省の納得を受ける。然し、農林省が納得しない場合はオジャンでやり直しをしなくてはならない。

値段を決めるには、パリティ方式と生産費方式とか言うのがある。現在も、すでに、三十五年度の吾輩の値段を決めるのに、百姓の味方らしい全国農業開始所とか言う連中や農業団体、農協中央会とか言う連中が運動をやっている。

この連中は、吾輩の値段を少しでも高くしようと考えて生産費及び所得保証方式とかいうので計算して、吾輩の値段を一石一万二千円以上にするように、農林省に訴えている。ところが、一般の百姓は頭が悪いから、こういう連中に協力しようとしない。中に少し頭のいい奴はいるが、この糸魚川近辺にはいないようだ。そのくせに金を欲しがる事は一人前だから苦笑千万である。

五年続きの豊作で、消費者共は配給される吾輩の仲間を嫌うようになったらしい。これは、百姓共が、供出の時吾輩の身体検査などが面倒くさいといって、ヤミ米というか、こっそり吾輩を売り飛ばすから、消費者共は、この方が安いとばかり、買いに来る。結局吾輩を作る百姓どもは気が付かない内に、大きい欠損をしている。

百姓は、こんな馬鹿なことを続けていると吾輩の統制が外されてしまう。吾輩はどうなってもいいが、お人好しの百姓共は、悪知恵のある人間共にごっぽり、もうけられて、苦しみがますますひどくなるだろう。

「百姓よ、良く考えて見んかね?」吾輩の仲間が多くなって政府でも、困っているから、何とかして、お人好しの百姓をごまかしてやろうとしているのだぜ。

食糧庁とかいう所の役人共が、吾輩の身体を良くして、良質米とかに仕上がるよう百姓に呼びかけているが、これも、仲間が増えたんだから「量より質」という時代に変わったんだろう。 吾輩は考えるんだが。百姓共は先ず質の良い吾輩を作って、少しでも高く売るようにしたら現代的だと思う。

それから、乾燥機も買うようになるだろう。責任を果たして今度は権利を要求することだ。それで百姓も、立派な人間共の仲間になれるだろう。

百姓の中にも、吾輩を作る人間と、そうでないミカンやリンゴを作る者、乳牛を飼っている者が居るが、吾輩を作る百姓共が、一番頭が悪いようだ。ほかの連中は、ボツボツ百姓をやめて「農業法人」になりつつある。百姓よ、吾輩を愛しているなら、もっと高く売れるように努力してくれないか。でないと吾輩が一番安物にされるではないか。

そして農業法人になれよ。吾輩は、まっているぜ。

上越米 越光より