上早川の歴史と伝説 (その三十六)

山の恵み~温泉~

山の恵みとして木材、木炭、硫黄を紹介してきましたが、上早川において山の恵みといえば、温泉でしょう。残念ながら焼山温泉は通常営業を止めましたが、滑らかな湯を特徴とする笹倉温泉は、大いに賑わっています。どちらの温泉も焼山の麓にあり、活火山の恩恵を受けた温泉といえます。

さて、この笹倉温泉は、『上早川村勢要覧・一九五二年刊』の記載を要約すると、砂場にあった宗林寺に安置されていた薬師如来の霊夢によっておよそ三百年前に開湯したものと伝わるそうです。当初より効能は顕著で次第に繁盛し、湯川内の某氏が湯守を継承しましたが度重なる早川の洪水は温泉の存亡を脅かしたようです。大正三(一九一四)年八月の洪水は致命的で浴槽と源泉が流出したことから暫く途絶えたそうです。その後、大正十三(一九二四)年に吹原の近喰仁太郎氏らの発案によって掘削が行われ、六十度の熱泉に達し、大正十五年に笹倉温泉組合を設立、開湯しました。温泉の効能は胃腸病、皮膚病、外傷、火傷などとうたわれ、梶屋敷駅からのバスの便もあって大いに賑わったそうです。その後、昭和十二年には経営組織を黒部川電力に移して現在に至ったとされます。

焼山の恵み 笹倉温泉

いずれにしても地球内部のマントルから焼山山頂に吹き上げるマグマの高熱によって地下水が熱せられて豊かな温泉が湧いているわけで、まさに大地(ジオ)の恵みといえるでしょう。なお、上早川にはこの笹倉温泉、焼山温泉のほかにも湯川内と宮平らに温泉が存在していたようです(木島)

ほこ通20190910(第86号)より